
オーチェア誕生エピソード
『 ・・・・・工房を設立したばかりの頃の話です。
オーチェアを初めてご注文してくださったのはTさん。
Tさんが工房2階のショウルームに来店されたときにはまだオーチェアはまだ生まれていませんでした。
腰痛持ちとのことで、腰当たりに最も自信を持っていた別の椅子をプレゼンテーションしました。
軽量でシンプルなミニマルデザインの椅子。
ダイニングには軽い椅子が良いのではと。
すわり心地はとても気に入ってくれたものの、何か物足りないご様子。
見た目がシンプル過ぎて面白みがない。
「重さは気にしなくてもいいので、このすわり心地をキープしつつ
もっと彫刻的で存在感のある椅子をデザインしてほしい」
「そう、この椅子ぐらい」
と大昔アマチュア時代にデザイン制作した彫刻的な椅子を指さすTさん。
私にとって衝撃的な一言でした。
プロになって椅子をデザイン製作するようになって当然意識する、
製作時間、材料費などのコスト意識。生産性。
それはそれで大切なことであるが縛られすぎると面白いものができません。
良い意味での木工遊びをいつの間にか忘れていました。
少し小さくまとまってしまっている自分を気づかされました。
今なら木工を遊びながら座り心地の良いクオリティの高い椅子ができるに違いない!
改めてデザインし直したのがオーチェアです。
Tさんも大変気にいって使用してくださっています。
こちらも忘れかけていた大切なことに気づかせてくれたTさんにとても感謝しています。
ものづくりは作り手だけでは成立しません。
依頼主使い手があってこそ成立します。
依頼主に気づかされること、
難題な依頼で育てられること、多々あります。
作り手は磨いたセンスと身に付けた技術で精いっぱいそれに応えます。
ものづくりを通して相乗効果のある良い人間関係が築けて、
つくったものに満足して頂けたときには、とても幸せな気持ちになります。 朝倉 亨 』
『オーチェアの、例えば、仕口。
・アームと背は3つのパーツで構成されていて、五枚組手で組まれています。
中央のパーツが漢字の「 王 」に見えることからオーチェアと名付けました。その「 王 」が腰をしっかり支え長時間座っても疲れません。
・座板は框組で構成されています。
その框組みの座板を、お尻が包み込まれるように削り込んでいるものは珍しく、座り心地も良いです。その他の部分も日本の伝統的なほぞ組みで組み立てられ、
西洋のダボ構造等の椅子に比べ、とても丈夫なものとなっています。
さらにその仕口自体が面白く美しい意匠になっています。
例えば仕上げ。
・反り台鉋や小刀などの日本の刃物で仕上げられています。良く切れる刃物
で仕上げられた木肌は艶やかで透明感があり、吸い付くような肌触りが心地よいです。それは人間の肌の摩擦系数に近いからだといわれています。
その良さは数年の経年変化でさらに顕著になります。
日本の伝統的木工技術は世界に誇れる技術です。
その技術は決して古臭いものではありません。
椅子のように日々繰り返し人が座り、触り、力が加えられるものに最も適した技術です。
オーチェアは伝統的木工技術と日本人の現代の暮らし、感覚に合ったモダンデザインとの融合がうまくいっている椅子だと思います。
最初の納品から、座り心地のフィードバック、一見わからないようなミリ単位、少しの角度変化(作り手にとっては大きな変化)、改良改善微調整を繰り返し今の姿になっています。』